大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和63年(行ウ)2号 判決

大阪府東大阪市西石切町五-一-四三

原告

国領薫

右訴訟代理人弁護士

乕田喜代隆

稲田堅太郎

須田滋

大阪府東大阪市永和二-三-八

被告

東大阪税務署長

稲崎清

右指定代理人

石田浩二

国府寺弘祥

前川忠夫

松原一敏

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

(申立て)

一  請求の趣旨(原告)

1  被告が昭和六一年一〇月一四日付で原告の昭和六〇年分の所得税についてした過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する被告の答弁

主文同旨

(主張)

一  請求原因(原告)

1  原告の昭和六〇年分の所得税について原告のした確定申告及び修正申告、これにつき被告のした過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件処分」という。)並びにこれに対する異議申立て及び審査請求の経緯は、別表記載のとおりである。

2  しかし、被告がした本件処分は、その前提となる、税額計算上の原告の妻の資産所得の合算(所得税法九六条以下。以下「資産所得合算制度」という。)が制度じたい無効で、過少申告加算税の要件にも合致しない違法なものであるので、その取消しを求める。

二  請求原因に対する被告の答弁及び被告の主張

1  請求原因1の事実は、認める。

2  本件処分の経緯は、次のとおりであり、本件処分に違法はない。

原告の昭和六〇年分の総所得金額、不動産所得金額及び配当所得金額は、別表の確定申告欄記載のとおりであり、同年分の原告の妻・国領トシ子の所得金額は、〈1〉配当所得金額が一二二万五〇〇〇円、〈2〉給与所得金額が七五四万五〇〇〇円であり、これにより資産所得合算課税の規定及び所要の控除を経て得た原告の納付すべき税額は、別表の修正申告・申告納税額欄記載のとおりである。そして、原告は、昭和六一年九月一二日、右のとおりの修正申告をしたが、被告は、昭和六一年一〇月一四日、その増差税額に基づき国税通則法六五条一項に従い本件処分をした。

三  被告の主張に対する原告の反論

1  資産所得合算制度は、〈1〉個人を課税単位とする税法の基本原則、〈2〉利子・配当所得の分離課税による骨抜きがされているという状況、〈3〉近時における税制改革の議論等に徴すると、不公正ないし合理性を欠くものであり、憲法に違反する。

また、資産所得合算制度は、難解な制度であり、原告じしん昭和六〇年分の所得について初めてその適用をみたものであり、被告としても、原告とその妻の確定申告が同一の封書に入れて提出されたのであるからその受付の際検討すれば直ちに発見できたはずであるし、少なくとも昭和六一年六月四日の還付金の交付までには十分検討できたはずである。

これらからすると、原告には右の過少申告について正当な理由があるというべきであり、これに原告が従前から適正な申告納税をしていたことも加味すると、少なくとも、本件は、原告に対し行政的制裁措置である過少申告加算税を課すべき事案ではない。

2  更に、原告の前記修正申告は、被告の部下職員からの電話によるしようように応じて進んで行つたものであり、国税通則法六五条五項にあたるものではない。

(なお、過少申告加算税は、過少申告であつたことについて、〈1〉正当な理由がないこと、及び〈2〉更正等があるべきことを予知してされたとき、に限つて課されるものと解すべきであるから、右〈1〉、〈2〉の立証責任は、被告にあるというべきである)

四  原告の反論に対する被告の再反論

1  原告の反論1は、争う。そもそも資産所得合算制度は、立法目的が正当であり、その態様も合理的であるから、なんら憲法に違反するところはない。また、原告の主張する事情なるものも、本来、確定申告は納税者がみずからの判断と責任において行うべき行為であること、及び原告が確定申告用紙とともに配布を受けた「説明資料」の記載ないし被告の申告相談の態勢等からすると、単なる原告の法の不知以上のものであるとはいえず、過少申告について国税通則法六五条四項にいう正当な理由があるとは到底いえない(なお、国税通則法六五条一、四項の文言に徴し、同条四項所定の「正当な理由」の立証責任は、原告が負うというべきである。)。

2  原告の反論2は、争う。被告の部下職員は、原告に対し、電話で原告に過少申告がある旨を告げたうえ、原告とその妻用の修正申告用紙と「資産所得合算のあん分税額計算書」用紙を郵送するまでしており、原告が被告の調査により更正があるべきことを予知して修正申告に及んだことは明らかである。

(立証)

本件記録中の書証目録記載のとおりである。

理由

一  請求原因1の事実は、当事者間に争いがなく、被告の主張2後段の事実は、原告において明らかに争わないからこれを自白したものとみなされる。

二  そこで、原告の反論1について検討する。

原告は、まず、資産所得合算制度が憲法に違反する旨を主張するが、原告の主張じたい、特定の法律における具体的な税額計算の定めに関する立法政策上の適不適を争うものにすぎず、違憲の問題を生ずるものではないというべきであるから、憲法違反をいう点は失当であり(最高裁判所昭和五三年(行ツ)第五五号・昭和五五年一一月二〇日第一小法廷判決・最高裁判所裁判集民事一三一号一三五頁参照)、また、制度じたいが不当であれば、過少申告加算税を課すべきではないとする原告の主張も採用できないから、原告の右主張は、そのいずれにせよ右「正当の理由」になんら影響を及ぼすものではない。

次に、原告の主張のうち、〈1〉確定申告の際又は還付金の交付までに過少申告であるとの指摘が被告からされなかつたことをいう点は、そもそも確定申告とは納税者がみずからの判断と責任においてその納税額をみずから確定させる行為であることに徴すると、たとえその際に被告らの受付ないし相談ということがありえたとしても、右は事実上の勧奨にとどまるものというべきであつて、とくにその際被告から指摘を受けなかつた一事をもつて右「正当の理由」の事情ないしその補完事情ということはできず、このことは、還付金の交付までの間においても同様ということができる。更に、〈2〉原告主張のその余の事情も、成立に争いのない乙第四号証及び弁論の全趣旨によると、被告は、昭和六〇年分の所得税の確定申告の便に供するため、資産所得合算制度についても二か所にわたつてその概要を説明した資料(六〇年分所得税の確定申告の手引き)を原告に交付しているほか、なお詳細については別途説明もする旨を右資料に記載していると認めることができ、右資料を順次読みすすむならば、通常の国民において確定申告にあたり資産所得合算制度についてその制度ないし内容じたいについておおよその理解を得ることは困難ではないというべきである。以上と対比すると、原告の主張するところを最大限に斟酌しても、右の原告不知に「正当な理由」があるといえないことは明らかである。

結局、原告の所論は、採用できない。

三  原告の反論2について。被告の再反論2の事実は、原告において明らかに争わないからこれを自白したものとみなされ、右によると、原告は被告の調査により更正があるべきことを予知して修正申告に及んだものと推認することができ、右推認に反する主張立証はない。

原告の所論は、採用できない。

(なお、原告の反論末尾括弧書の主張は、国税通則法六五条四、五項が、過少申告加算税の要件を定めた同条一項の例外として規定されているという立法の体裁にかんがみ、右四、五項の事実は原告にその立証責任があると解すべきであるから、失当である)。

四  以上によると、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川口冨男 裁判官 園部秀穂 裁判官 齋木利夫)

別表

課税の経緯(昭和60年分)

〈省略〉

(注) △は、還付税額を表す。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例